トレンド&テクノロジー / 冨田和弘が斬る!建築ビジュアライゼーション業界
第9回:海外の建築ビジュアライゼーション事情 その2

更新日 2010.03.31

前回のコラムで海外の建築ビジュアライゼーション事情、とりわけお隣の中国のお話しをしました。圧倒的な人員と価格でせまるアジア諸国のCG事務所に対して私たちが今考えるべき事は何か。私が関わりの深い中国のCGを例として、この辺りを今回の題材にしたいと思います。

前回は中国CGの良い面を挙げましたが、長く付き合ってくるとネガティブな部分も見えてくるようになります。このネガティブな部分(ネガティブに見える部分)を題材にして、私たち日本の建築ビジュアライゼーション制作者が何を考え、どの様な行動を起こすべきかを考えてみたいと思います。


価格について

価格的な魅力は薄れつつあります。これは中国の価格が高騰した訳でなく、悲しいかな日本のCG制作に関する価格が下がった事が要因です。勿論、味をしめた中国のCGプロダクションが価格を引き上げてきたという事はありますが、それ以上に日本の価格が落ち込んでしまっています。

価格に関してのアドバンテージが無くなっている事は良い事ではありますが、痛し痒しといったところです。日本の建築CGの制作状況からいえばパースの価格の殆どは人件費です。設備投資は大した比率になりません。日本が世界でも有数の人件費が高騰している国である事から考えれば、中国と価格が変わらないといういう事は別の意味で異常事態です。


品質とテイストについて

CGの品質に関しては甲乙付けが足しといったところでしょうか。ハッキリ言って制作者のレベルに起因しますので、どちらが上であるとかの議論は不毛です。一方テイスト(味)に関してですが、中国のCGは昔はいかにも中国っぽいテイストを持っていて、それを嫌う人も多かったのですが、今は彼らもクライアントが世界中に広がっている事もあって無国籍なテイストになってきています。逆に日本の方が日本固有の表現になりつつあります。好みは色々あるでしょうが、これもどちらが勝っているという話ではありません。

将来を見据えた上での私の個人的な見解では、テイストは日本の方が弱いと思っています。言い換えれば負けているという事です。日本のCGはクオリティは高いのですが、テイストという部分では無味無臭的な物が多く、クライアントへの訴求力が弱いと思っています。中国の場合はテイストが行き過ぎているという側面はあるものの自身の個性を出した物が多く、先行きを考えればこの傾向は良い方に展開すると思っています。

この事はCGの使われ方に起因する事で、中国の場合は仕事が取れる取れないの要因の一つにCGが含まれるのでクライアントに訴求するテイストが常に求められます。この様な状況下で鍛えられれば、この現状は至極自然です。日本の場合はそこまで考えが及んでいるクライアントが少ないので致し方ない面もあります。ある意味国レベルの構造的な問題なので、CGデザイナーだけに問題がある訳ではありません。


制作過程について

制作過程については2つの事柄に分けられます。

一つは価格の考え方です。中国の場合はモデリングがFixしないとレンダリングに移りません。レンダリングに移行してからモデリングに戻る場合は別料金を取られます。これはモデリングがFixした時点でconfirmationを交わしている事からもわかります。一方日本の場合はこの様な事が起こっても価格に反映されなかったり、担当者レベルのネゴによる胸先三寸で決まってしまいます。クライアントから見ればこの点は日本のCGプロダクションの方が使い勝手が良い事になりますが、建築ビジュアライゼーション業界的に見れば大きな問題で有る事は確かです。

他方は制作スタイルについてです。中国は分業が当たり前で、大枠では静止画担当、アニメーション担当が分かれていて、それぞれについてモデラー、レンダラー、レタッチャーに分かれています。更には、それぞれについてエクステリアとインテリアで分かれているという徹底ぶりです。これは小規模事務所も例外ではありません(小規模といっても中国の場合は10人から20人の事務所規模になりますが)。それぞれスペシャリストを配して制作に臨むという素晴らしい体制作りではありますが、問題もあります。製造業ならいざ知らず、デザイン業であるCG制作の場合は、テイストを維持するのが大変です。あとはちょっとした変更に対応するのも、大勢が関わるため容易ではありません。この事は前述の価格の考え方にも現れています。一方日本では大きな会社は分業しているでしょうが、大多数は兼務というか、殆ど1人から2人で対応しているのが実情です。1人が殆どを見るので、テイストやクオリティコントロールが容易な事と、クライアントに対してきめ細やかな対応が可能です。但し1人が病気で倒れると制作への影響は計り知れず、デザインというカテゴリーながら体力勝負にならざる得ないのが頭痛の種です。中国は安価な労働力が有る事もこのシステムを支えている要因です。

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□中国CGパースSample01


日本の強みは?

ここまで読んできて上記の答えが見つかりましたか?何れも引き分けっぽくて強みが見えないと思われている読者の方、その考えで正解です。幾つかの部分で強みがあり、そこを強化して差別化を図るという考え方もありますが、様々な局面でプラス面、マイナス面があり、平均してみると大差ない状況なので、労力のわりには報われない結果となる確立が高いのが実情です。先の事まで見据えれば、逆に中国の強みがクローズアップされてしまいます。中国の強みは≒アジアの強みです。今後更に強力になっていくであろうベトナムをはじめとする東南アジアやインドが控えています。

では日本の建築ビジュアライゼーションに関わる人間の未来は暗いのかと問われれば、考え方次第という答えになります。そうです、考え方を根本から変える必要があります。


ブランディングの2極化

ファッション業界ではユニクロの一人勝ち状態が続き、他者も追随状態にあります。但し一方で、不況で売り上げが伸び悩んでるとはいえ、高級ブランドも健在です(更にデフレが進めば微妙ではありますが)。逆にこの狭間にある業態は軒並み駄目になっています。

建築ビジュアライゼーション業界でもこの考え方は重要です。
一つは圧倒的なブランドを確立する事。今の建築業界では難しい面がありますが、日本の強みであるクオリティの高さと、きめ細やかな対応にプラスしてテイストを身につける事で確立は可能です。グローバリゼーション化していくこの先を見据えた場合は尚更です。

一方ローコスト路線という選択もあります。現状でも大バーゲンプライスなのにこれ以上は無理とお考えかもしれませんが、そこに発想の転換があります。何も人件費の高い日本で作る必要はありません。外注先はアジア諸国に沢山有ります。子会社をアジアに作ってしまうという選択肢もあります。実際中国の大手事務所の中にはコストダウンのためにモデリングをインドに発注しているくらいです(これは見習うべき事です)。製造業では当たり前の話で、自動車会社でも日産が主力車種のマーチを海外生産に切り替えロープライスを実現しようとしています。

中国やその他アジアのCGプロダクションと付き合うのは大変ではないのかと不安に感じられるかもしれませんが、大した事はありません。勿論、いきなり入っていって苦労なく上手くいくとは言いませんが、ノウハウある人物と組めば問題なく出来ます。こういうところに私みたいな人間の価値が少し出てきます(ちょっと宣伝です 笑)。費用の問題も大した事はありません。個人レベルでは難しいかもしれませんが、何人か集まれば可能だと思います。それは現地法人を立ち上げるのも同じ事です。現状、ディレクターとして日本人は最低一人は必要でしょうが、制作者を圧倒的に安い単価で雇う事が出来ます。アバウトに単価の話をすると、中国で日本の半分、ベトナムは1/3から1/4程度です。もっといえば交渉次第でコストはいかようにもなります。

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□中国CGパースSample02


クライアントは世界

現地法人を立ち上げる選択肢にはもう一つのメリットがあります。それは日本の企業がアジアに出て行く際の信頼できるパートナーとなり得る事です。

前述のアジア諸国には多くの日系企業が進出しています。企業が進出しているという事はそこに建物が建つという事です。実際日本の設計事務所も中国やベトナムに支社を構えています。これらの企業を相手にする事で、場合によってはその国での日本企業の発注シェアを独占する事も夢ではありません。更には日本企業の仕事を足がかりに、現地の企業から仕事を受注する道も開けます。アジア諸国はフィーに対する厳しい面もありますが、その裏返しで認められる部分にはきちんとフィーを払ってくれます。アジアを含めて海外の場合は建築ビジュアライゼーションに対するニーズが高いためプロダクションの実力如何で道は大きく開けます。


ボーダレスな考え方

この様に局所的な見方(日本)を捨て、物事を大局的(世界)に見る事が重要です。ボーダレス社会と言われて久しいですが、何事も古い慣習を捨て去らないと新しい価値観は創造できません。100年に一度と言われる経済不況によって様々な変化が現れているなかで、私たちも手をこまねいている訳にはいきません。
クライアントを世界と考え行動する事もそうですし、CGプロダクション同士が手を結んで新たな事業に乗り出す事もそうです。大会社がM&Aで市場の確保に乗り出している時に、中小規模の会社が旧態然では話になりません。


まとめ

今回は世界進出みたいな内容になりましたが、自身に当てはめてみた場合どうですか? ここ最近私の周りは仕事が増えてきたようで、大不況も一段落ついたのかと思わないでもありませんが、世の潮流は好むと好まざるとこの方向へシフトせざる得ない状況です。勿論、建築ビジュアライゼーションの世界も例外ではありません。

また海外というと大仕事のように感じるかも知れませんが、製造業と違い成果品も全てインターネット上で済んでしまうCG業界にとっては、東京と大阪で分業する位のレベルの話です。実際ノウハウはあります。申し訳ありませんが私の持つノウハウをここで公開する訳にはいきません(飯の種でもありますので 笑)。ただ、わかってしまえば、経験してしまえばとりわけ高度な事でも何でもありません。 極論すれば近隣諸国をよく見てみる事だけです。これまでアジアなど全く考えていなかった方には異世界に感じるかもしれませんが、これを機に少し海外へ目を向けてみて下さい。目を向けてみるだけで身の回りにいろいろな変化が起こると思います。

更新日 2010.03.31
著者プロフィール
冨田 和弘
冨田 和弘
Next Picture株式会社 代表
1990から2007年まで大成建設設計本部に所属し、プレゼンテーションGrのプロジェクトリーダーとして建築家原広司氏、伊東豊雄氏との多数のプロジェクトをはじめ、大規模プロジェクト・海外プロジェクト・設計コンペ等にCGディレクター及びデザイナーとして参画。2008年に株式会社未来技術研究所の建築ビジュアライゼーションセンターの所長に就任。2009年より独立し現在に至る。2006年より京都大学建築学科非常勤講師。建築ビジュアライゼーションの講演、執筆多数。一級建築士。
HP:www.next-picture.co.jp

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