トレンド&テクノロジー / 冨田和弘が斬る!建築ビジュアライゼーション業界
第5回:建築CGパースに求められるもの<その2>

更新日 2009.09.18

前回は「建築CGパースに求められるもの」として、最初のステップであり大きな山場でもある初回打合せでの留意点をお話ししました。案外簡単に済ませてしまいがちな打合せがその後の制作にいかに影響が大きいかを理解していただけたんじゃないでしょうか。

今回は「建築CGパースに求められるもの 2」として,前回に引き続き制作段階で留意すべき点をお話ししたいと思います。


制作STEP

皆さんはパースを制作する際の手順というもをどの様にして身につけましたか。大体は自然に身についていると思いますが、その制作手順は狙い通りの建築パースを描くために自分なりに考え抜いたものだと自信を持って言えますか?案外学校で習った手順だったり、入った会社の制作手順が自分にとってのスタンダードになっていませんか。または他の人はどうしてるんだろう?と周囲の人に制作手順を聞いてみたりした事がありますか。

前回同様多くのクライアントを抱え、仕事も潤沢で修正等も少ない方は自分に合った制作スタイルが確立できていると思って間違いないので、この後の内容は軽く流し読みしてもらって結構です。このご時世、仕事が減ってきた、来ても値切られてしまうとお困りの方は以降の内容を参考にされるのも一考です。

5_cgpers_vol2_01.jpg
燕市市庁舎コンペ案
設計:ラウムアソシエイツ一級建築士事務所

さて私の制作手順は
1)モデリング
2)アングル決定
3)ライティング
4)質感設定&レンダリング
5)レタッチ
という流れで、3と4は行ったり来たりしながらレタッチまで持って行きます。ここまで読んで、ん?自分と同じ(大して変わらない)じゃないか!とお思いの方がいると思いますが、具体的に各STEPの中身をお話ししていくと、少しずつ皆さんとの違いが出てくるのではと思います。

前置きはこのくらいで各STEP毎の考え方をお話ししたいと思います。(レタッチは文章での説明が非常に難しいので割愛させていただきます)

1)モデリング
このSTEPは一般的な手順と大差ありません。違いがあるとすれば、モデリング中はクライアントとの打合せで出てきた建築物のコンセプトや特徴を常に頭に描きながら「建築物をモデリングを通して理解しよう」と努めている点ではないかと思います。こういう考えを持ちながらモデリングを行っていくと建築物の見せ場が自然と分かってきて、次のSTEPのアングル出しの際の手助けになります。もっと言うと、私の出自が設計なのでデザイン自体に口を出したくなってきます(クライアントには絶対に言えない事ですが...笑)。

このレベルに来れば建築のフォルムに対しての理解が深まっている現れだと思いますし、その後の打合せやレンダリングにおいても作業がスムーズに行くと思います。

2)アングル決定
モデリング→アングル決定の流れは殆どの人の制作手順と考えて間違いないと思います。私も同じですが、アングルに対する重み付けが少し違っているのではと世にある多くのパースを見ていると感じます。

私はパースの善し悪しを決定する主要因はアングルにあると思っています。どれだけレンダリングテクニックが優れていてもアングルが駄目だとテクニックが素晴らしいだけに余計に駄目なパースに見えてしまいます。逆に優れたアングルのパースの場合は、例えGIを使用していないスキャンラインだけのものでも非常に良く見えます。ここで決定するアングルは、制作するパースで表現すべき事の重要なガイドラインとなるもので、これまでの打合せの集大成となるものです。ここのズレを後に挽回するのは不可能に近いのでかなりの時間を費やすようにしています(アングル出しからやり直せば勿論可能ですが、制作期間がそれを許してはくれません)。

前回お話しした流れでいうと、建築の素人に対しては広角でパースの付いた絵が効果的で、建築のプロに対する説明的なものに対しては目に近い画角で極端なパースを付けない傾向にあります。

しかしこれも一般論にすぎず、パースの使用目的等を鑑みて、既成概念に捕らわれないアングル出しが肝要です。そのためにも様々なアングルにトライすべきで、そのため当然ながら多くの時間をアングル出しに割く事になります。

アングル出しをしてクライアントと打合せをする際の注意点も一言。それは求められるアングルに対してあまり多くのアングルを提示しない事です。親切心と早くFixさせたい思いから多くのアングルを出す気持ちは分かりますが、そうする事でクライアントに迷いが出る場合があります。有り体にいってまともなクライアントは頭の中にパースのイメージが出来ているので多枚数は必要有りません。3カットぐらいにしておく方が決定をスムーズにします。
ただし各アングルの設定理由をきちんと理論的に説明できる事は必然です。

3)ライティング
この辺りから若干手順に違いが出るというか、ここで言うように明確に順位付けがなされていない場面が出てくるのでは思います。

私の中でアングル出しと同等の重み付けでパース制作に重要なものはこのライティングです。その重要度はアングルの項でお話しした内容がそのまま当てはまります。実際に設定する際の考え方や設定方法も皆さんと違いがあると思いますのでお話しします。ここではGIレンダラーの使用を前提にお話ししますが、私はまず白または白に近いグレー(80%程度)で全てのオブジェクトに同一のマテリアルを割り当てます。そうしてからライティングを開始します。何故この様な手法でスタートするかというと、設定したライティングの素直な光環境を把握するためです。Giレンダラーの場合は間接光の飛び方がパースのクオリティを左右するようになります。この点を鑑みて設定を行っていく訳ですが、間接光の飛び方はマテリアルのアトリビュート設定にも左右されます。そのため、設定を進めていくと光源が主たる要因で現状の光の飛び方になっているのか、アトリビュートの設定が起因しているのか、または両方だとしてもどちらがより多く影響しているのかが分からなくなってきます。このような事態を避けるために、一度素直な(同一のアトリビュート)設定で間接光の回り込みを頭に焼き付けてから次のSTEPへ進めるようにしています。

次に行うのはガラスや水などの透過オブジェクトにそれらしいマテリアルを割り付け仮レンダリングをします。当然の事ですが、透過オブジェクトより後ろのモデル(インテリア等)への光の回り込みを見るためです。この際にレンダリング時間が許すならガラスや水の質感は反射・屈折を含めたリアルな設定を施します。建築パースではガラスや水の質感は全体のクオリティに大きく影響するため、早めにその影響をみたいがためこの様な手順を踏みます。

ライティング設定でもう一つ気を付けているのが影の落ち方です。太陽光として考える場合は、打合せの時に大枠の設定は決まってしまいますが、建築物をより良く表現するため影の落ち方にこだわって微調整を行います。特に建物自体に影が落ちるような場合は、建築がわかりにくくならないよう、又はより建築の空間を表現できるように配慮します。3dsMaxの場合はビューポート上でリアルタイムに影の落ち方が確認できるので楽に影の落ち方をシミュレート出来ます(mr physical skyを使っていると空の色も劇的に変わってかなり楽しい 笑)。

ついでにライティングとは違いますが露出補正もここで一度行います。ただし前述したライティングとは違い露出補正はレンダリングされた結果に対して上から明るさ・コントラスト等をかけるため(レタッチソフトと同様の処理)、現段階(全オブジェクトが白系のマテリアル設定)での取りあえずの設定に止め、レンダリングが煮詰まりだした頃から再び微調整を行っていきます。

5_cgpers_vol2_02.jpg
燕市市庁舎コンペ案 設計:ラウムアソシエイツ一級建築士事務所

4)質感設定&レンダリング
いよいよ質感設定ですが、建築で重要な質感は金属(鏡面反射体でないもの)、ガラス、水、マットな表現(コンクリート等)の4つと言い切って良いと思います。これが上手く表現できていれば全体としてのパース表現は成功していると言えます。個々の質感設定はみなさん日頃から切磋琢磨されていると思いますし、十分な質感が出ていると思いますので具体的な設定方法は割愛します。ここではそれ以外の私が行っている事をお話ししたいと思います。

まずは質感を付けていく順番ですが、ライティングの所で話したように透過オブジェクトは先に割り当てます。次に割り当てていくのは光を多く反射するオブジェクトです。例えばエクステリアの地盤面とか芝とか歩道とか、室内であれば床など。これもライティングでお話しした事と考え方は一緒で、間接光の影響が大きい所から手を付けていきます。あと 皆さんと多分違う時々私が行っていることとしては、マットな表現の物にわざと若干のリフレクション効果を付けたり、リフレクションが強いマテリアルに若干の透過を加えたりなどです。具体的な事例を踏まえてお話ししないとどういった場合に効果が有るかを説明するのは難しいのですが、ここでは現実の事象をシミュレートする事よりも、パース全体で何を表現するかに主眼を置いて、既成概念を逸脱しても表現にこだわる手法をとっているとご理解頂ければと思います。ベースの考え方はCGの持つ無機質感を軽減させ、レンダリング結果に「あや」を付けていく事でパースに表情を着けていくと言った考え方です。

レンダリングに関してはなるべく軽い設定手法で仕上げます。私の成果品を見た方に普段設定しているレンダリングパラメータをお教えすると驚かれる事が多いです。レンダリング設定を軽くする事でノイズ感が出るのは否めませんが、そのノイズもパースのあやとして上手く活用すれば、逆にノイズ感の有る絵の方が必要になってきます。この辺りは私の描いているパースを良く観察してみて下さい。なお、ここでお話しした内容は前回お話ししたように、パース制作の前提条件として企画・計画、基本・実施設計フェーズでのコンセプチャル寄りなケースでの話です。別のフェーズでは別の考え方がありますのでそれを忘れないようご理解下さい。


トータルバランスを見る

ここまで私の制作STEPをお話ししてきましたが如何でしたか。みなさんの気づきに少しでもなれば幸いです。

一貫して言える事は個々の細かい事象には捕らわれずパース全体として絵を作り込んでいく姿勢、いわばトータルバランスを重視した制作STEPだと思います。勿論全体としてのパースの狙いを実現するため細かい部分にこだわる事もありますが、全ては全体のバランスが最優先事項だという事です。例え個々の質感が非常にハイクオリティでも全体から見てバランスが取れていなければ無意味です。木を見て森を見ずという言葉が有りますが、パースの場合は常に森を中心に据えながら気になる木に修正を加えていくというスタイルです。更には既成概念に捕らわれない設定も重要だと思っています。全体を調和させる上で逆に現実とはかけ離れた設定が必要になる事も有るという事です。
全ては表現したいパースをトータルで考えるという事につきます。


最後に

建築パースで求められる表現とは、個々のオブジェクトがもつクオリティやリアルなライティングでは無く、建築という物体が構成する空間を如何に演出するかにつきます。何も無いある空間に建築が立つ事で別の空間がそこには生まれます。これまでそこの空間が持っていたポテンシャルを新たに構築された建築が切り取り、新しい空間を構築するようになります。この空間を表現する事が建築パースの使命と考えていますが、言い過ぎですかね(笑)。あと、演出するという点も重要です。決してシミュレートすることではありません。
最後はちょっと大げさな表現になってしまいましたが、それくらいの気概と誇りを持って建築CG制作を行っていきたいと真面目に考えている今日この頃です。


最後に少し宣伝を。今回のコラムは言葉では中々伝わりにくかったと思いますが、実感できる場を提供しています。ハンズオン形式でインディゾーンさんの協力でセミナーを不定期に開催していますのでご興味が有る方は覗いてみて下さい。また、私が日頃どの様なCGを制作しているかの一端をお見せできる場としてHPをやっとこさOPENしました。 此方もご興味が有れば覗いてみて下さい。(7から8年ぶりにFlashを触ったので、随分苦労してしまいOPENまで時間が掛かってしまいました)

セミナー : http://indyzone.jp/catalog/form/3dsmax/02oct/index.html
HP : http://www.next-picture.co.jp

次回はこのコラムを書き出した頃とは変わりつつ建築ビジュアライゼーションの現状をお話ししたいと思います。

更新日 2009.09.18
著者プロフィール
冨田 和弘
冨田 和弘
Next Picture株式会社 代表
1990から2007年まで大成建設設計本部に所属し、プレゼンテーションGrのプロジェクトリーダーとして建築家原広司氏、伊東豊雄氏との多数のプロジェクトをはじめ、大規模プロジェクト・海外プロジェクト・設計コンペ等にCGディレクター及びデザイナーとして参画。2008年に株式会社未来技術研究所の建築ビジュアライゼーションセンターの所長に就任。2009年より独立し現在に至る。2006年より京都大学建築学科非常勤講師。建築ビジュアライゼーションの講演、執筆多数。一級建築士。
HP:www.next-picture.co.jp

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