トレンド&テクノロジー / 冨田和弘が斬る!建築ビジュアライゼーション業界
第27回:アジアを視野に入れる

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今回はちょっとアジアに目を向けてみましょう。アジアと言っても私が直接関わっているのは中国なので、主たる内容は中国の話と言うことになりますが、見聞きしている範囲では他の東南アジア諸国も近い内容のようなのでアジアという言葉でくくらせて頂いています。今回久しぶり中国との関係を取り上げたのは、気づいている方もいらっしゃるとは思いますが、CG(パースやアニメーション)を介した日本との関係が変わってきている事があります。来るべくして来たという感じのする変化ですが、さてどの様な変化が訪れているのでしょうか。

フェーズ1 中国案件での活用

そもそも中国のCGプロダクションに制作を依頼するようになった経緯とはどんなものだったんでしょうか。勿論、中国のプロダクションが日本でも営業を始めたと言うこともありますが、私の経験では逆に此方からアプローチしたというものでした。

2004年頃だったと思いますが、建築も中国での案件が増えてきてコンペに参加するようになりました。当時はコンペに参加する際に地元の設計院と組むことが多く(現在でもこのスタイルが殆どだと思いますが)、その際のCG発注は設計院が地元のCGプロダクションに発注する形で行いました。ですので私は発注後に出来上がったCGを見て、初めて中国の建築CGを目の当たりにしたのですが、リアリティ系の少し華やかな質の高い表現で、しかも制作期間が短く、更にはコストは日本の半分程度でした。この表現力、制作期間、コストは何れをとっても当時の私には非常にインパクトがありました。アニメーションに至っては、「今後は日本で作っても中国に歯が立たないな」と思わせる位の出来でした。

インパクトがあると表現しましたが、正直落胆したのを今でも良く覚えています。うちの内作では勝負にならないと...。そこで私は一念発起して中国発注を決意し、リサーチのもと中国とのパスを構築しました。当時、中国へのCG発注が進んでいたのは日建設計や佐藤総合など中国で実績を上げつつある企業でしたが、何処も似たような経緯で中国との関係が築かれていったものと思います。

フェーズ2 日本国内案件での活用

当初は中国案件に限った登用でしたが、その表現力とコストは非常に魅力的で、国内の案件でも利用しようと考えるのはごく自然の流れでした。また商魂逞しい中国のプロダクションはこの様な情勢をキャッチしているようで、日本での営業も増えてきました。これらを背景に様々な建設会社や日本のCGプロダクションが国内のCG制作のために中国の手を使いだしました。

しかし、いざ国内の案件をやらせてみると、此方の思ったようなCGを制作してくれなかったり、日程のルーズさがあったり、フィーの考え方の問題等でなかなか上手くいかなかったのが実情です。ここで中国CGの活用に関してふるいにかけられる事となります。

1:諦める
2:限定的に使う
3:マネージメントによって使いづらさを克服しフル活用する。

手際よくさっさと縁を切るか、少し努力してみたがたち行かず諦めるかする事が一番多く、せっかくここまでやって来たのだから使える部分だけ活用しようと、中国案件に絞ったり、モデリングのみを発注したりと、 1、2に至った会社が多かったように思います。私は3のケースですが、何とかマネージメントし初年度で年間1000万超の発注規模に育てました。ただ、軌道に乗せるまでにはそれなりの資本投下は必須で、この予算を捻出できるか否かが成功への大きな分かれ道になったことは確かです。そこまで資本を投入しなかった(出来なかった)会社は最初の段階で失敗しています。上手くいった(いったように見える)会社も内情はまちまちでしょうが、このようにして中国CGとの付き合い方が定着していきました。

ここまで読むと中国は使いづらかったのかと判断しがちですが、誤解しては行けないのは中国側の対応が悪いというより(勿論問題の多い会社もありましたが)、日本のCG発注事情が世界的にみると特殊だという点です。端的な例をお話しすると、一般的に海外ではモデリングとレンダリングの垣根は明確で、一度モデリングが終了しレンダリングに入ってからのモデル修正は新たに費用が発生します(モデリング終了時にモデル業務終了のconfirmationを取ります)。当然レンダリングに入ってからの様々な修正も程度はあれ費用が発生します。海外で仕事をされた経験がある方はわかると思いますが、CGに限った話ではなく広く一般的に当たり前の話です。スタートの見積でパース一枚10万と決めたから、どの様な対応でも10万円などという話は何処を見渡してもありません。この辺を取り上げて中国は使いづらいとレッテルを貼るのは少しかわいそうな話です。

逆にこの辺りを良く理解して関係を築ければかなり好転するのですが、日本の設計者は自分たちがスタンダードだと思っているのでこの壁は高いものとなっています。私はこのような点に留意して関係を築いていったので、何とかものに出来たのではと思っていますし、広く一般のCG制作を考える際も、ここで得た多くのノウハウや関係者とのパスは今でも生きています。

フェーズ3 最近の動向

ようやく最近のお話しです。中国CGと上手いマネージメントで良好な関係を築いてきた会社が、最近は中国へのCG発注を辞めだしています。読者の皆さん、理由は何だと思いますか?ちょっと考えて見て答えを出してから読み進めて下さい。

答えは、コストの高騰です。

ご存知の様に中国経済の発展はめざましく、アジア1の経済大国になっています。そうなると当然人件費の高騰がセットで訪れ、これまでの中国発注の最大の魅力と言える低コストが崩れて来だしました。そうするとどうなるか。マネージメントで良好な関係を築いて来たとは言え、国内のプロダクションと比較すれば言葉も含めて使いづらいと言うのは純然たる事実です。また、表現力もソフトウェアの進歩や皆さんの技術の向上によって大差はありません。コスト面も悲しいかな国内のCG単価は依然と比べかなり下がってしまっています。ならば面倒な中国から日本のプロダクションに発注先を鞍替えしようというのは自然の流れです。特に中国発注でCG制作をまかなってきた会社、設計事務所は中国に変わるCGプロダクション国内で探しています。

そうです。今、営業のチャンスなのです!

但し、ちょっと注意しないと行けないのは、前述の会社は中国に出し慣れているのでフィーは国内単価の中の下または最低レベルに近いものです。このコスト構造に対応出来ることが条件です。しかし中国に出しているような会社は発注件数も結構なボリュームがあるでしょうから総量の効果も期待できます。またフィーも制作の実力があれば交渉の余地はあると思います。

一歩先の見方

最近の動向に関してお話ししてきました。今が営業のチャンスであることは間違い有りません。ただ一歩下がってこの状況を俯瞰してみると一歩先の見方も出来ます。

中国の人件費が高騰していると言うことは、中国国内のCG単価が上がっていると言うことに他ありません。単価が上がっていると言っても日本の中クラス以上とは行かないでしょうが、最低レベルには届いてきています。日本国内の単価も下がる一方で、これまでの制作を粛々と続けていては明るい兆しも見えません。もうお分かりかと思いますが、クライアントとして中国を見る時期に来ていると私は思います。中国国内のCG製作の仕事が減ったと言われていますが、それは中国国内比であって、制作量は日本と比べものになりません。コストの吸収は現地の人材活用によって帳尻を合わせることが可能です。また、他の経済発展著しい東南アジアの国々も中国ほどとは言えなくても近い状況で、この先を見据えればクライアントとして成長していくことは想像に難くありません。

設計・CG制作:Next One Atelier
設計・CG制作:Next One Atelier

中国の会社をクライアントに?本当にそんな事が出来るの?と思われるかも知れませんが、ここからはビジネス構築のお話しです。他業種を見れば分かるように、上手く中国進出している会社は利益を上げ、中国が重要なマーケットになっています。建築CGで問題になっている中国のネガの部分は当然他業種でも起こっていることで、それを克服することで他業種にとって重要なマーケットになっています。他業種が問題を克服し重要なマーケットとして成長著しい中国が、建築CGから見た時には関係ないとは到底思えないのですが、皆さんはどう考えますか?

最後に

じゃあお前はどうなんだと言われると、私は幸い前述の様に様々な経験を積み、中国に進出出来るノウハウ・パスは持っているつもりなので自信はあります。ただ、それなりの覚悟は必要なのと、現在面白い国内のプロジェクトが幾つか動きそうなので、情報収集は怠らないようにして様子見にしています。また私は別のアプローチで中国を見ているので、そのアプローチとセットで建築CGに入っていこうと考えています。いずれにせよ、今後の建築CGを見ていく時に絶対に外せないのが中国を初めとするアジア諸国だと考えています。このコラムを読んで皆さんは何か感じるものがありますか?それとも他国の話、自分には無縁と切り捨てますか?

今回掲載したCGは私の別口での中国アプローチの際に制作した体育館のCGです。設計者と共同で作業をしているので、モデリング1日、レンダリング・レタッチ1日のものです(これ以外に2枚、計3枚を1日で仕上げています。他のパースはまた次回にでも。オープンに出来るネタが少ないので小出しですいません)。このアプローチは尖閣問題で水泡に帰しましたが、アプローチ自体は継続しているので、1日も早く成功させ皆さんに報告できればと思っています。それでは次回またお会いしましょう。

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