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株式会社サテライト 
劇場版マクロスF 〜サヨナラノツバサ〜 
迫力あふれる戦闘シーンとライブシーンの映像表現を支えたオートデスク3DCG製品群

株式会社サテライト 劇場版マクロスF 〜サヨナラノツバサ〜 迫力あふれる戦闘シーンとライブシーンの映像表現を支えたオートデスク3DCG製品群
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バルキリーから放たれる芸術的なミサイルの軌跡

作画時代にはバルキリーを描くために必要な線の数までも考慮した機体のデザインが河森監督によって行われていたという。しかし、3DCGの採用によってこういった描画に対する一切の制約が取り払われたのである。3DCGでは複雑な機体デザインであっても毎フレームの描写が可能であり、アニメーターはアニメーション作業のみに集中が出来る。このため、よりクオリティの高いアニメーション表現が可能になったという。

バルキリーの3Dデータは、河森監督のスケッチを3Dに起こした後にデザインのキャッチボールを何度も行って変更を重ねながら次第に完成へと近づけられていく。この作業は、3ds Maxを用いてモデリングからUV設定までが専任者によって行われている。

同じく3ds Maxによってモデリングが行われたバジュラ。

完成したモデルデータは、Softimage、Mayaへエクスポートされ各チームの担当ショットで利用される。作品に登場するバルキリーは、同じ機体であってもSoftimage、Maya、3ds Max用にデータがそれぞれ存在する。各担当者が得意とするオートデスク製品を用いて映像制作は行われているのだ。カットによっては、Softimageで作成したカメラワークをFBXフォーマットでMayaに読み込んで作業を行ったり、Mayaで作成したレイアウトやアニメーションを3ds Maxに読み込んだりといった連携もとられた。

SoftimageとMayaに読み込まれたYF-29。

Softimageのリグセットアップ画面。各ソフトでファイター、ガウォーク、バトロイド形態のリグが用意された。

では、異なるソフト間の微妙なレンダリング質感の差はどう統一をとられたのであろうか?

まず、各ソフトからベースカラー、ハイライト、輪郭線、影、アンビエントオクリュージョンの素材が出力された。これら素材に対して、加島氏が組み上げた基本コンポジットネットワークを各社が共有することで解決が図られたのである。つまり、同じカット内で使用するソフトウェアが異なる場合も、微妙なレンダリング質感の差異は自動的にコンポジット処理で吸収する工夫が行われたのだ。

トゥーンやフォトリアルとも異なる新たな2.5D質感のバルキリーはこうして表現されている。複数のオートデスク製品を併用出来る環境をしっかりと整備したことでプロジェクトはスムーズに進行が行えたという。

戦闘シーンでは3DCGチームが主導でアクション構成やレイアウトの決定が行われている。奥行き、回りこみ、空気感といった表現を得意とする3Dならではダイナミックさを活かした映像を戦闘シーンでは追求しているそうだ。

戦闘シーンの制作では、まず絵コンテをもとにアニマティクス映像の作成が行われる。アクションが複雑なカットでは、いったん紙に描いてからアイデアをまとめた後にアニマティクス作業に入る。紙に描くアナログ手法のほうが、カットの比較や入れ替えの検討作業での初動が優れているためだ。そして、副監督や演出担当と出来上がったテスト映像のチェックを重ねながらアクション構成が固められていく。レンダリング映像と歌を合わせた一連のシーケンスとして河森監督による最終的なチェックが行われるという流れだ。

河森監督の絵コンテをもとに、崎山氏によって9秒間のアクション構成が練り直された。

マクロスシリーズといえば美しいミサイルの軌跡を思い浮かべる方も多いのではないだろうか。煙を発生するミサイルの軌跡は、3つの手法が場面ごとに使い分けられている。

・ミサイル自体をエミッターとしてパーティクルを発生させるタイプ
・垂直に発生させたパーティクルをパスに沿わせるタイプ
・完全手描きタイプ

煙ではなく、ビームの軌跡が発光するミサイルは、カーブのパスにチューブを沿わせることで表現している。なお、完全手描きタイプの煙やビームも3DCGチームが自らデジタル作画を行っているという。

日本独特のアニメーション表現

マクロスFのCGアニメーションでは、タメ、ツメといった日本独特のアニメーション表現が継承されている。例えば、カメラの前をオブジェクトが横切る時は少しゆっくりと対象を動かし、奥へと移動する時に急激にスピードを上げ、遠くではゆっくりと移動するといった誇張表現である。

動きだけでなくカメラの画角にもこだわった絵作りが行われている。同じ画面内で手前のオブジェクトは広角レンズで描き、奥のオブジェクトは望遠レンズで描く手法である。これによってマクロス独特の奥行きを強調したパース感が表現されているのだ。

宇宙空間では無重力感を出すために、カメラロールを意識して追加したり、レイアウトや敵をあえて天地逆さまに配置して下側からライティングしたりといったことも行っているそうだ。

戦闘機の飛行シーンにリアリティをもたせるために、崎山氏はスタッフと共に事前に航空ショーで取材も行っているという。本物が持つ迫力や現場の雰囲気を自ら感じて、その体験を自分のフィルターを通して作品にアウトプットすることはより良い作品を生み出すためには重要なことであるという。バトルシーンのカメラアニメーションに緊迫感を持たせるため、実際にカメラマンが戦闘空間を飛行しながら撮影するようなカメラの動きが心がけられている。経験が浅いCGアニメーターは、どうしても画面のなかに収まり過ぎた予定調和なアニメーションをつけがちであるという。実体験、撮影カメラマンの気持ち、キャラクター自身の気持ち、そして状況を冷静に判断する演出家としての側面といった全てのバランスがとれて初めて良いアニメーションが生まれるという。

大気圏内の戦闘描写では集中線による記号的な表現は行わず気流素材を用いてスピード感を表現している。

八木下氏によるとロボットに人格やキャラクター性を見いだせる感覚を持っているのは日本人独特の感性ではないかという。表情のないバトロイドのようなロボットであっても、手の力の込め方や顔の向き、立ち姿といった部分で感情表現を行い、バルキリーのキャラクター性を表現しているという。

日本のリミテッドアニメは、セル枚数の制約のなかで最大限の表現を行うためにレイアウトやカットの技術が進歩してきた。しかし、3DCGをリミテッドアニメに近づけるために枚数制限を行ってしまうとバルキリーならではのスピード感が失われてしまう。そこで、アクションやカメラワークが激しいカットではバルキリーのアニメーションはフルフレームで映像化されている。

誇張表現による日本独特のアニメーションを継承しながら、これまでは制約で表現が出来なかった部分にCGの良さが生かされているのだ。カートゥーンではない日本独特のアニメーションのノウハウを若手スタッフに継承するのも自分たちの重要な仕事であると八木下氏、加島氏、崎山氏は口をそろえて語ってくださった。

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