• Home
  • >
  • ユーザー事例
  • >
  • ゲーム
  • >
  • 『FFXI』のヴァナ・ディールでの冒険をスマートフォンで実現した『ファイナルファンタジーグランドマスターズ』

『FFXI』のヴァナ・ディールでの冒険をスマートフォンで実現した『ファイナルファンタジーグランドマスターズ』

株式会社スクウェア・エニックス、クルーズ株式会社
『FFXI』のヴァナ・ディールでの冒険をスマートフォンで実現した『ファイナルファンタジーグランドマスターズ』
  • Maya
  • ゲーム

『ファイナルファンタジーグランドマスターズ』(以降、『FFGM』)は、株式会社スクウェア・エニックスが配信、クルーズ株式会社と共同開発するスマートフォン向け本格オンラインRPGだ。本作の冒険世界であるヴァナ・ディールは、2002年の配信開始以来、現在もサービス継続中のMMORPG『ファイナルファンタジーXI』(以降、『FFXI』)の舞台でもあり、長年多くのユーザに親しまれてきた。『FFGM』のユーザは、『FFXI』でもお馴染みの種族・ジョブ・防具・武器などを自由に組み合わせ、自分だけのオリジナルキャラクターを育成し、仲間との出会いや冒険を楽しむことができる。そんな本作の冒険世界はフル3DCGで構築されており、制作にはAutodeskのハイエンド3DCGツールであるMayaが使用されている。その制作の舞台裏を、本作のプロデューサーを務めたスクウェア・エニックスの渕上貴史氏と、アートディレクターであるクルーズの野澤圭介氏へのインタビューを通して紐解いていこう。

スマートフォンの限界まで"冒険感"を出すため、3Dを選択

渕上貴史氏
(株式会社スクウェア・エニックス プロデューサー)

渕上 貴史 氏
(株式会社スクウェア・エニックス
プロデューサー)

現在ゲーム業界の第一線で活躍する30代前後の開発者のなかには、「初めてのオンラインゲーム体験は『FFXI』だった」という人たちが数多くいる。「この世代の開発者を巻きこんで、『FFXI』を題材とするスマートフォン向けゲームを制作できたら、すごく面白くいことになるのでは......という思いもあって、『FFGM』の企画はスタートしました」と渕上氏は語る。

現在もサービスを続けている『FFXI』の開発チームを始め、社内の関係者たちから了承を得た渕上氏は、開発パートナーとなってくれる会社を探すことにした。「『FFXI』を題材とするからには、スマートフォン向けゲームの運営ノウハウがあって、経験豊富な会社と組んだ方が良いだろうと思ったのです」。そんななか、名乗りをあげた会社の1つがクルーズだった。

▲【左】『FFGM』のキービジュアル。『FFXI』の世界観を踏襲しつつ、スマートフォンというプラットフォームの特性を考慮し、デフォルメされたデザインになっている/【右】バトルシーンのプレイ画面

野澤圭介氏
(クルーズ株式会社 ゲームアプリ事業本部/デザイン統括責任者)

野澤 圭介 氏
(クルーズ株式会社
ゲームアプリ事業本部/
デザイン統括責任者)

クルーズから最初のプレゼンテーションを受けた当時、渕上氏は本作のビジュアルについて具体的なイメージをもっていなかったという。「出し抜けにスマートフォンで動く3DCGのモックを見せていただき、"これだ!!"と直感したのです。今からふり返ると荒削りなモックでしたが"3Dでつくりたい!"というクルーズの皆様の情熱と覚悟が伝わってきて、十分な説得力がありました」。このとき制作したのはバトル部分のモックで、かかった期間はたったの2週間だったと野澤氏はふり返る。

「この時点では、我々の意気込みさえ伝われば良いと思っていたので、MayaとUnityを使い、少数のスタッフで一気につくりあげました。『FFXI』の一番の魅力は、広大な世界を仲間と一緒に自由に冒険できる楽しさだと思います。その"冒険感"を表現するなら、2Dではなく3Dだろうと考えたのです。スマートフォンの限界まで冒険感を出すことが、本作の最重要課題でした」。

共通の素体データを使い、体型のちがう5種族を表現

情熱溢れるプレゼンテーションで、渕上氏を始めとするスクウェア・エニックスサイドの信頼を勝ち取った野澤氏たちは、本作の仕様検討に着手した。「各アセットのポリゴン数やテクスチャサイズ、リギングのシステムなどをエンジニアと相談しながら決定していきました」(野澤氏)。約3ヶ月におよんだ仕様検討の期間中、開発陣がとりわけ気を使ったのが"着せ替え"のシステムだった。「『FFGM』には、一番小柄なタルタルから、一番大柄なガルカまで、5つの種族が登場します。さらに戦士や白魔道士など5種類のジョブを展開し、サービス開始後は段階的に増やしていくことも予定していました」。数百個にのぼる防具や武器などのアセットを種族の数だけ制作するとなると、計り知れない時間を要する。当然データ量も大きくなり、ユーザの快適なプレイを阻害するおそれがあった。

1画面に最大20体のキャラクターを表示できるMMOスタイルでありながら、ユーザがストレスなく遊べるゲームに仕上げるため、本作には様々な工夫が凝らされていると野澤氏は語る。「工夫次第では、2Dよりも3Dを使った方がデータ量を抑えたつくり方ができるし、量産もやりやすいのです。試作を通して、"着せ替え"システムと3DCGは相性が良いと確信しました。例えば本作のキャラクターのボディは、すべて同じ素体を使っています。タルタルもガルカも、参照するボディのデータは同じで、体型のちがいはUnityのボーンのスケール値を変えることで表現しているのです」。防具や武器にも同じ仕組みを適用しているため、データ量はコンパクトに抑えられるというわけだ。

▲【上】キャラクターの素体。ヘッドは男性・女性の2種類がつくられており、ボディは兼用だ/【下】左から、ガルカ・ヒューム・エルヴァーン・ミスラ・タルタル。すべて同じ素体・防具・武器のデータが参照されており、種族による体型や大きさのちがいは、Unityのボーンのスケール値を変えることで表現されている

データ量を抑える工夫はテクスチャにも施されている。「キャラクターの肌の色はUnityのシェーダで設定しています。明暗情報だけを描いたグレーのテクスチャに、特殊なシェーダを組み合わせて各種族の肌のちがいを表現しているため、テクスチャも1種類しかないのです」。このシェーダは、肌の暗い部分と明るい部分の色情報が個別に設定できるようになっており、例えばガルカには茶色がかった肌色、エルヴァーンには透明感のある肌色が適用されている。

顔のテクスチャ【左】と、眼のテクスチャ【中】。どちらも明暗情報だけが描かれており、色情報はUnityのシェーダ【右】で設定されている

▲顔のテクスチャ【左】と、眼のテクスチャ【中】。どちらも明暗情報だけが描かれており、色情報はUnityのシェーダ【右】で設定されている

3Dデザイナー全員が、実作業と外注管理の両方に対応できるゼネラリスト

仕様の確定後、野澤氏たちはアセットの量産にとりかかった。「クルーズによるアセット制作は、スピード・クオリティの両面で素晴らしく、サービス開始までに必要とされたデータが揃うまでに1年もかかりませんでした」と渕上氏はふり返る。この量産は、10名弱のクルーズの3Dデザイナーと、外部協力会社によって行われた。前職ではコンシューマゲーム開発に携わっており、10年来のMayaユーザという野澤氏。ほかのデザイナーも、多くが類似のキャリアを有するベテランだという。

「なかには新卒入社、業界2年目の若手もいますが、大半は経験豊富なゼネラリストで、モデリング・アニメーション・エフェクトの全てを臨機応変に担当できます。量産を依頼した会社もMayaの扱いに慣れており、一定以上のクオリティの仕事をしてくださいました」。とはいえ、基本的に納品されたデータをそのまま使うことはなく、社内のデザイナーがブラッシュアップしていたそうだ。「当社のデザイナーは、全員が外注管理と実作業の両方を担っています。協力会社へのチェックバックなどを何度も繰り返しているとスケジュールの遅延につながってしまうので、一定レベルに達したデータは社内で仕上げるよう心がけてきました」。

▲【左】Mayaによるキャラクターモデリング/【右】防具のテクスチャ。「スマートフォンは画面が小さいので、各素材の明暗を異なる色相で表現すると汚い印象になりがちです。同じ色相に統一することで、すっきりとした画づくりを心がけました」(野澤氏)

▲【左】Mayaによるキャラクターアニメーション/【右】アニメーションの動画。どのキャラクターも共通の素体やボーン構造を使っているため、種族を問わず共通のアニメーションデータを適用できる

なお、エフェクトは全て社内で制作しており、キャラクターや背景同様、Mayaのポリゴンメッシュで表現されている。「初めはパーティクルシステムでエフェクトを制作していたのですが、サイズの異なるモンスターに適用すると、身体のなかに埋まってしまうといった問題が発生したのです。そのため、Mayaのポリゴンメッシュを使うことにしました」。加えて本作では武器ごとに異なるアビリティが設定されており、それに応じたエフェクトが必要だったため、制作には相応の時間を要したという。「運用後も順次武器を増やしているので、エフェクトも継続して量産する必要があります。手間はかかりますが、バトルの手応えを左右する大切な要素なので神経を使っています」。

▲【左】Mayaによるエフェクト/【右】エフェクトの動画。ポリゴンメッシュに透明度やスケールを適用して制作されている

▲バトルシーンのプレイ画面&背景モデル【上2枚】と、フィールドのプレイ画面&背景モデル【下2枚】。比較すれば一目瞭然だが、キャラクター・モンスター・背景にいたるまで、ポリゴン数に大きな開きがある。「バトルシーンはなるべくリッチな見た目にしたい一方で、フィールドには最大20体のキャラクターを表示する必要がありました。そのためバトルシーンのキャラクターとモンスターのポリゴン数を約1/6程度までリダクションしたデータを用意し、フィールドに配置しています。リダクションにはSimplygonを使いました。背景に関しても、フィールドではポリゴン数やテクスチャサイズを削減するため、アイコン的なデザインに落とし込みパターン化してあります」(野澤氏)

アルファ版・ベータ版・最終版など、開発の節目ごとに行われた本作の監修に参加した渕上氏は、クルーズの働きに感謝していると語る。「監修メンバーのなかには『FFXI』の開発者も含まれていましたが、彼らもクルーズの仕事を評価していました。我々の高い要求を着実にクリアし、10月の正式サービスにこぎ着けてくださった手腕は本当に素晴らしかったです」。順調な滑り出しでユーザ数を増やした本作は、同月中に100万ダウンロードを突破。さらなる盛り上がりを見せている。「我々は今の成果に、まだまだ満足していません。今以上に面白い冒険世界を実現できるよう、今後もチーム一丸となって運営に取り組んでいきます」(野澤氏)。

野澤圭介氏(クルーズ株式会社 ゲームアプリ事業本部/デザイン統括責任者)
渕上貴史氏(株式会社スクウェア・エニックス プロデューサー)

スクウェア・エニックス/SQUARE ENIX
クルーズ/CROOZ

野澤圭介氏(クルーズ株式会社 ゲームアプリ事業本部/デザイン統括責任者)
渕上貴史氏(株式会社スクウェア・エニックス プロデューサー)

株式会社スクウェア・エニックス
http://www.jp.square-enix.com

クルーズ株式会社
http://crooz.co.jp

『ファイナルファンタジーグランドマスターズ』公式サイト
http://www.jp.square-enix.com/FFGM/

導入製品/ソリューション Autodesk Maya
Autodesk MotionBuilder

TEXT_尾形美幸(CGWORLD)
PHOTO_蟹由香

製品購入に関するお問い合わせ
オートデスク メディア&エンターテインメント 製品のご購入に関してご連絡を希望される場合は、こちらからお問い合わせください。