QualiArts 
VR空間で"50cmの距離感"を追求する『オルタナティブガールズ』

QualiArts VR空間で

2017.05.12

『オルタナティブガールズ』サイバーエージェントが配信するAndroid・iOS対応ゲームアプリで、2016年7月にサービスを開始した。11月に100万ダウンロードを突破し、2017年2月にはPC版もリリースされた。本作のプレイヤーは『キャプテン』となり、『オルタナ』と呼ばれる少女たちと共に夜獣(ナイトビースト)に立ち向かう。キャラクター表現には3Dとモーションキャプチャが使われており、VRモード対応シナリオでは"50cmの距離感"で少女たちの可愛さを堪能できる。そんな本作の制作には、 Autodeskのハイエンド3DツールであるMayaとMotionBuilder が活用されている。以降では、本作を企画・開発・運営するQualiArts(サイバーエージェントグループ)の若手3Dアニメーター3名へのインタビューを通して、最新の3Dスマートフォンゲーム開発事情をお伝えする。

キャラ性に応じて、セットアップやモーションを細かく変更

▲『オルタナティブガールズ』PV第3弾

本作の開発スタートは2014年10月頃で、約10名の少人数チームによって試作版がつくられた。その時点で、『3Dとモーションキャプチャを駆使したリッチなグラフィックスで、女の子の可愛さを表現する』『VRによって、ユーザーと女の子の距離を限界まで縮める』という方向性は決まっていたという。「それまでの開発経験を踏まえ、さらに高度な3D表現を追求するため、徐々にスタッフを増員してきました」と、小沼千紘氏は語る。

小沼千紘氏

(3Dアニメーター)
東京工芸大学芸術学部 ゲーム学科を卒業後、新卒としてサイバーエージェントへ入社。在学中からMayaをはじめとする3Dツールを使ってきたため、『オルタナティブガールズ』3Dチームへの配属を希望。モーションリーダーとして『オルタナティブガールズ』のモーションキャプチャのディレクションを担当し、現在に至る。

小林千夏氏

小林千夏氏

(3Dアニメーター)
サーバサイドエンジニアとしてサイバーエージェントへ入社。3Dアニメーションに興味をもち、仕事をしながら3DCGスクールのAlchemyで約1年間学ぶ。キャリアチャレンジ(現部門での勤続年数が1年以上経過した社員が、希望する他部門またはグループ会社への異動にチャレンジできる社内異動公募制度)に応募し、『オルタナティブガールズ』3Dチームへの異動を希望。2015年10月から同チームでモーションを担当し、現在にいたる。

高石 梨香子氏

高石 梨香子氏

(3Dアニメーター)
Webディベロッパーとしてサイバーエージェントへ新卒入社。社内でUnityの研修を受けた後、UnityエンジニアとしてAndroid・iOS対応ゲームアプリ『ウチの姫さまがいちばんカワイイ』の開発に携わる。同作がきっかけで3Dアニメーションに興味をもち、その後『オルタナティブガールズ』3Dチームへの異動を希望。また3Dアニメーションの基礎を習得するため、オンラインスクールのAnitoon Academiaで学ぶ。2015年12月から同チームでモーションを担当し、現在にいたる。

『オルタナ』の少女は、リリース当初、第1チーム『フリージアドッグ』と第2チーム『アイリスキャット』からなる2チームに編成されていた。これらのキャラクターのうち、最初に3D化されたのが悠木 美弥花(ゆうき みやか)だった。「美弥花は本作の『顔』となるキャラクターだったので、まずは彼女の3Dモデルを制作し、ルックやモーションの方向性、テクスチャやセットアップの仕様などを検討しました」(小林氏)。

2Dのデザイン画から3Dモデルを制作した後、3Dディレクターの海老沼 宏之氏、アートディレクターの庄司拓弥氏、3Dモデルリーダーの八田勧生氏などが中心となって、何度も調整が繰り返されたという。美弥花の3Dモデル完成後は、『フリージアドッグ』の他5名が制作され、さらに『アイリスキャット』の6名が制作された。「美弥花のデータを指針にしつつ、それぞれのキャラ性に応じて、セットアップやモーションを細かく変更しています」(高石氏)。

▲第1チーム『フリージアドッグ』6名の2D画。左から悠木 美弥花(ゆうき みやか)、有村 詩音(ありむら しおん)、真野 桜子(まの さくらこ)、橘 直美(たちばな なおみ)、織宮 結衣(おりみや ゆい)、天堂真知(てんどう まち)。各々にちがうキャラ性が設定されており、それらがセットアップやモーションにも反映されている

▲第2チーム『アイリスキャット』6名の2D画。左から朝比奈 乃々(あさひな のの)、水島 愛梨(みずしま あいり)、広瀬 こはる(ひろせ こはる)、柊 つむぎ(ひいらぎ つむぎ)、西園寺 玲(さいおんじ れい)、シルビア=リヒター。こちらの6名にも、『フリージアドッグ』の6名とはちがうキャラ性が設定されている

▲美弥花(3Dモデル)を表示中のMayaの作業画面。頭部は四角ポリゴン、頭部以外は三角ポリゴンでつくられており、キャラクター1体当たりのポリゴン数の上限は18,000ポリゴンとなっている。VRモードやストーリーパートではこのモデルを使い、バトルパートではポリゴン数を半分以下に削ったローポリゴンモデルを使う

▲【左】美弥花のテクスチャ。左上から時計まわりに、肌と衣装(1,024×1,024pixel)、瞳(256×256pixel/アルファチャンネルあり)、瞳のハイライト(256×256pixel/加算合成用)、顔(1,024×1,024pixel)、顔パーツ1(512×512pixel/アルファチャンネルあり)、衣装パーツ(256×256pixel/アルファチャンネルあり)、衣装(1,024×1,024pixel)、髪(1,024×1,024pixel)、顔パーツ2(512×512pixel/アルファチャンネルあり)。素材の似ているパーツごとにテクスチャを分けており、ユーザーの視線が集中する顔には、特に高解像度のテクスチャを使っている/【右】テクスチャを割り当てた美弥花の3Dモデル

▲美弥花のボーン。1体当たりのボーンの平均数は62本で、100本を上限としている。髪が長いキャラクターや、衣装のゆれものが多いキャラクターほどボーンが多くなる。本作ではキャラクターが様々な衣装に着替えるため、衣装に応じたセットアップの調整も必要となる。例えば2017年のお正月には振り袖の衣装を追加したため、振り袖用ボーンの設定や、めり込み調整が必要になったという。なお、髪やゆれものの制御にはUnityの物理シミュレーションを使用している。「12人の身長やスタイルはバラバラなので、ゆれや変形具合の調整も個別に行なっています。1人として同じセットアップのキャラクターはいません」(小沼氏)

2ヶ月に1回ペースでキャプチャを行い、キャラ性のちがう12名のモーションを制作

前述の通り、少女たちの身体の動きはモーションキャプチャがベースとなっている。現在は2ヶ月に1回ペースでモーションキャプチャが行われており、撮影時のディレクションもモーション担当者の役割となっている。「ストーリーパートのモーションは、多いキャラクターで50個以上あります。ストーリーパートの動きはバトルパート以上にキャラ性を出しやすいので、キャラクターごとに全て変えています。バトルパートのモーションは、1体当たり12個で、武器が同じキャラクターの場合は兼用することもあります。変身する場合や個性を出したい場合には、専用モーションをつくっています」(小沼氏)。

学生時代からMayaを使ってきた小沼氏は、初心者でも扱いやすいグラフエディターのアニメーションカーブが気に入っていると語る。「使い慣れ、手になじむほど、グラフエディターの奥深さを実感するようになってきました」(小沼氏)。

モーションキャプチャのアクターは、日常芝居が得意な人と、アクションが得意な人を、それぞれ数名ずつ手配している。どのアクターも演じる少女のキャラ性を的確に把握しており、見事に演じ分けてくれるという。「事前に参考映像や絵コンテを用意して、演技や動きの内容が具体的に伝わるよう工夫していますが、アクターさんの方から提案してくださる場合も多いですね。モーションの『引き出し』を沢山もっている方々なので、私たちが用意した資料を踏まえて、さらに素晴らしい演技や動きをしてくださいます」(小沼氏)。

例えばVRモードのモーションキャプチャでは、事前に小沼氏たちが制作した参考映像をアクターに見せ、演技や動きのアイデアを膨らませてもらってから撮影に臨んでいる。しっかり事前準備をすることで、アクターは演技に集中でき、より質の高いモーションをスムーズに撮影できるという。

VRモードには専用シナリオ、バトルパートには必殺スキルが用意されており、それぞれに専用モーションが必要となる。たとえモーションキャプチャを使っても、キャラ性のちがう12名のモーションを制作するためには、膨大な時間と手間がかかるそうだ。「フェイシャルアニメーションはブレンドシェイプを使って手付けしているので、とりわけ時間をかけています。どのフレームで止めても可愛さが損なわれることなく、しっかりキャラ性が反映されるよう、慎重に、真剣に、つくり込んでいます」(高石氏)。

Mayaを使い始めてから日の浅い高石氏だが、Mayaのユーザーは世界各国に数多くいるので、困ったことがあっても、本や雑誌を読んだり、ネット検索をすれば、解決策が見つかる場合が多いと語る。「先行事例の豊富な点も、Mayaを使うメリットのひとつですね」(高石氏)。

本作ではカメラワークもモーション担当者が付けており、他の要素と同様にキャラ性を考慮した調整がなされている。例えば、VRモードでは『目線の高さ』にこだわっているという。「女の子の身長に合わせて機械的に目線の高さを設定するのではなく、その子が1番可愛く見える高さになるよう、0.1mm単位で値を変え、何度も実機で確認しながら調整しています」(小林氏)。

何度も繰り返す必要性のある操作は、専用ツールをつくった方が効率的だ。そんなとき、前職がサーバサイドエンジニアだった小林氏は、MELスクリプトを使ってツールを自作することもあると語る。「大がかりなツールをつくる場合はテクニカルアーティストに依頼しますが、ちょっとしたツールであれば自分でつくります。拡張性が高くカスタマイズしやすい点も、Mayaを使うメリットのひとつだと思います」(小林氏)。

▲ストーリーパートのゲーム画面。【左】の美弥花には『明るく元気なフリージアドッグのリーダー。』、【右】の 詩音には『面倒見が良く、まじめでやさしいみんなのお姉ちゃん』というキャラ性を反映させたモーションが個別に設定されている

▲モーションキャプチャの撮影風景。光学式を使い、複数アクターのモーションを同時に撮影している。ストーリーパートの中には、【左】のようにキャラクター同士のかけ合いを含むカットシーンもある/【右】撮影のディレクションをする小沼氏

▲VRモードの美弥花のモーションキャプチャ風景(モーションアクターは、SOLID CUBEの能登有紗氏)。撮影中に仮音声を流すことで、さらにアクターが演技に集中できるそうだ。画面左上を見ると、撮影したモーションデータが美弥花の3Dモデルへとリアルタイムに流し込まれ、その場で再生されていることがわかる。撮影データはMotionBuilderを経てMayaにインポートされ、モーション担当者がブラッシュアップしていく。「キャラクターになりきって演じてくれたアクターさんの演技が活きるよう、Mayaでの調整はもちろん、実機内での再生のタイミングにも神経を使っています」(小林氏)

▲前述のモーションキャプチャにて撮影したデータを使った、美弥花のVRモードの映像。VRモードは、VRラウンジに加え、1話と5話の専用シナリオでも楽しめる。「1話では自己紹介、5話ではデートのシナリオを用意しています。女の子との親密度が上がるとシナリオが解放され、デートを楽しめるようになるのです。1話よりも親密度が上がったことを示すため、5話では頬を染めてデレの部分を多めに見せるなど、シナリオ展開に準じたモーションの変化にも気を配っています」(高石氏)。なお、VRモードの映像1本当たりの尺は1∼1.5分に設定されている。映像は短すぎるともの足りず、長すぎると間延びしてしまうため、何度も試作を重ね、現在の尺に落ち着いたという

▲直美の必殺スキルの絵コンテ。必殺スキルの内容は、キャラクター設定や、後述するカードのモチーフに合わせて決定される。多いキャラクターは4パターンもあり、長めの尺で凝ったエフェクトやカメラワークを付けるため、特別に絵コンテが制作される。前述の参考映像と同様、絵コンテもモーションキャプチャ撮影前にアクターに見せ、アイデアを膨らませてもらうという

直美のカード
こはるのカード

▲【左】直美のカード。『趣味はストレッチ』という設定を踏まえ、前述の必殺スキルも、上のカードも、スポーツがテーマになっている/【右】こはるのカード。『お菓子が大好き』という設定を踏まえたモチーフが描かれている

▲美弥花の必殺スキル。エフェクトリーダーの緒方貴之氏が中心となり、BISHAMON によって凝ったエフェクトが制作される。必殺スキルのカメラワークも、モーション担当者に任されるという。「クロースアップショットとロングショットをバランスよく組み合わせ、メリハリと爽快感のある演出になるよう心がけています」(小沼氏)

▲【左】ブレンドシェイプのためのパーツ。眉、目元、口元に加え、瞳のハイライト、頬染め用のチークなどが数多くつくられている/【右】フェイシャルアニメーションを制作中の作業画面。右上のグラフエディターを見れば、非常に細かくキーフレームが打たれていることがわかる。画面下部には、本作専用のフェイシャルアニメーションのコントローラが表示されている

▲Unityと併用している、本作専用のシナリオ入力エディタ。このエディタは本作のために自社開発された。Mayaで制作されたモーションデータは、FBX形式でUnityにインポートされ、エディタのコマンドで呼び出される。キャラクターの配置、モーション再生のタイミングなどを入力すると、リアルタイムに結果を確認できる。入力はスクリプターの担当だが、モーション担当者が実機内での見映えを確認する目的で、このエディタを使う機会も多いという

ユーザーとキャラクターとの距離感を、"50cm"というギリギリの間隔まで縮めるため、徹底的にモーションを追求し続ける『オルタナティブガールズ』。そのバリエーション豊かなキャラ性の表現は、MayaやMotionBuilderといったAutodeskの3Dツールと、モーションキャプチャによって支えられている。加えて、若手3Dアニメーターたちのみずみずしい感性と情熱も不可欠の要素と言えるだろう。彼女たちの生み出すモーションが、スマートフォンゲーム市場における3D表現をさらに盛り上げてくれることを期待したい。

TEXT_尾形美幸(CGWORLD)
PHOTO_大沼洋平

導入製品/ソリューション Maya
MotionBuilder